親が認知症になる前に!実家の売却や口座凍結を防ぐ4つの法的対策

最近、親の物忘れが少し増えてきたかもしれない

今はまだ元気だけれど、将来もし介護が必要になったらどうしよう

高齢の親を持つようになると、このような不安を抱える方は少なくありません。親の健康や日々の生活に対する心配はもちろんですが、それに伴う「親の財産管理」や「相続対策」をどう進めればよいのか、何から手をつけるべきか迷ってしまう方も多いでしょう。

結論からお伝えしますと、親の財産を守り、ご家族の負担を減らすための対策は「親が元気で、判断能力がしっかりしている今」しかできません。

親が認知症になったらどうなるのかという正しい知識を持ち、事前に準備をしておくことで、将来の選択肢は大きく広がります。

本記事では、認知症による口座凍結や不動産売却のトラブルを防ぐために、認知症になる前にご家族で話し合っておきたい法的対策について、司法書士が分かりやすく解説します。

目次

親が認知症になったら起こる4つの問題

親が認知症になり、「意思能力(自分で物事を判断する能力)」が低下したとみなされると、親の財産は実質的に動かせなくなってしまいます。これは決してご家族を困らせるためのものではなく、悪徳商法などから親の財産を保護するための厳格なルールです。

しかし、このルールによってご家族が直面しやすい4つの具体的な問題があります。

1. 銀行口座が凍結され預金が引き出せない

親が認知症になったことが金融機関に知られると、親名義の銀行口座は凍結されます。「親の介護費用や入院費を親自身の預金から支払いたい」と思っても、家族が窓口やATMで現金を引き出すことは原則としてできなくなります。結果として、子どもが一時的に費用を立て替えざるを得なくなり、ご家族の生計に影響が出るケースが多く見られます。

2. 実家などの不動産売却ができなくなる

親が施設に入居するための資金を作る目的で「空き家になった実家を売却したい」と考えても、名義人である親に意思能力がなければ、売買契約を結ぶことができません。建物の解体や大規模なリフォーム、不動産の賃貸契約も同様に制限されるため、実家がそのまま放置され、固定資産税や維持費だけがかかり続ける事態になりかねません。

3. 遺言書の作成ができなくなる

ご自身の財産を誰にどう残したいかを取り決める「遺言書」は、作成する本人にしっかりとした判断能力があることが必要です。認知症が進行してからでは遺言書を作成できず、将来の相続発生時に、ご家族間で予期せぬトラブル(争族)に発展するリスクが高まります。

4. 生前贈与による相続対策が難しくなる

将来の相続税負担を減らすために、子どもや孫へ少しずつ財産を移していく「生前贈与」も、贈与する側と受け取る側の双方の合意が必要です。親の判断能力が低下してしまうと、この合意が成立しないため、予定していた相続対策が途中でストップしてしまいます。

認知症になる前に検討すべき4つの法的対策

上記のような事態を防ぐためには、親の意思能力がはっきりしているうちに、以下の4つの制度を検討しておくことが大切です。ご家庭の状況によって最適な方法は異なります。

家族信託

家族信託とは、親(委託者)が元気なうちに、自分の財産の管理や処分を信頼できる家族(受託者)に託す契約のことです。たとえば、「実家の管理と売却の権限」を子どもに託しておけば、親が認知症になった後でも、子どもが親の代わりに実家を売却し、そのお金を親の介護費用に充てることができます。柔軟な財産管理が可能になるため、近年非常に注目されている制度です。

任意後見制度

任意後見とは、将来自分の判断能力が低下したときに備えて、「誰に」「どのような支援をしてもらうか」をあらかじめ自分で決めておく制度です。元気なうちに将来のサポート役(任意後見人)と契約を結んでおき、実際に認知症が進行した段階で、家庭裁判所の手続きを経てサポートを開始します。身上保護(医療や介護の契約など)を確実に任せたい場合に有効です。

遺言書の作成

認知症になる前であれば、法的に有効な遺言書を作成できます。誰にどの財産を相続させるかを明確にしておくことで、親亡き後のご家族の負担や揉め事を防ぐことができます。自筆で作ることも可能ですが、確実性を高めるためには公証役場で作成する「公正証書遺言」がお勧めです。

生前贈与

暦年贈与(年間110万円までの非課税枠の利用)などを活用し、親が元気なうちに財産を次世代へ移していく方法です。認知症の進行具合によっては途中でできなくなるため、早期に計画を立てて実行に移すことが重要です。

【比較表】家族信託と成年後見制度の違い

親が認知症になった後の財産管理方法として、「成年後見制度」をイメージされる方も多いでしょう。ここでは、事前の対策である「家族信託」と、認知症発症後に利用することが多い「法定後見(成年後見制度)」の主な違いを整理します。

比較項目家族信託(事前対策)成年後見制度(事後対応を含む)
開始のタイミング契約締結後、親が元気なうちから判断能力が低下した後(法定後見の場合)
財産を管理する人信頼できる家族(子どもなど)家庭裁判所が選任(専門家が選ばれることも多い)
実家の売却・活用契約内容に基づき、家族の判断で柔軟に可能居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
積極的な資産運用契約で定めた範囲内で可能原則不可(財産の「維持・保全」が目的のため)
ランニングコスト原則不要(家族間で行うため)専門家が後見人になった場合、継続的な報酬が発生
身上保護の権限なし(介護施設の入所契約などの法的な権限はない)あり(医療・介護などの契約行為が可能)

家族信託は「柔軟な財産管理」に優れていますが、施設入所契約などの「身上保護」の権限はありません。そのため、ご希望によっては家族信託と任意後見を組み合わせて利用することもあります。

よくある相談事例

実際に寄せられる具体的なご相談事例を紹介します。

  • 空き家になった実家を売却したいが、父が認知症に
    ご相談者様のお父様が施設に入所し、実家が空き家になりました。維持費がかかるため売却しようと不動産会社に相談したところ、「お父様の認知症が進んでおり、このままでは売買契約が結べない」と断られてしまいました。このケースでは、最終的に成年後見制度を利用せざるを得ず、売却までに数ヶ月の手続き期間と費用がかかり、「もっと早く準備しておけばよかった」と悔やまれていました。
  • 母の定期預金を解約できず、介護費用が捻出できない
    お母様が認知症を発症し、高額な介護施設の入所費用が必要になりました。お母様名義の定期預金があることは分かっていましたが、窓口で本人の意思確認ができないため解約を断られました。結局、ご相談者様(長男)が一時的に数百万円を立て替えることになり、ご自身の生活費を圧迫する事態となりました。

こうしたトラブルの多くは、「元気なうちに家族で話し合い、対策を立てておく」ことで未然に防ぐことができます。

「親が元気な今しかできない」理由と相談のタイミング

認知症対策において最も重要なポイントは、生前対策は「親に判断能力があるうち」にしかできないという事実です。

「まだ元気だから大丈夫」「そのうち考えよう」と先延ばしにしている間に、病気やケガ、あるいは自然な衰えによって急に意思疎通が難しくなることは珍しくありません。認知症の診断が下りてからでは、家族信託も、任意後見も、遺言書の作成もできなくなってしまいます。

ご家族で集まるお盆や年末年始、あるいは親が定年退職を迎えたタイミングなど、「少し早いかな?」と思う時期にこそ、将来の財産管理について話し合いを始めることを強くお勧めします。

司法書士に「親の財産管理」を相談するメリット

相続対策や親の財産管理に関する情報はインターネット上に溢れていますが、ご家庭ごとに財産の状況や家族構成、将来の希望は異なります。専門家である司法書士に相談することで、以下のようなメリットがあります。

  • フラットな視点での最適な提案
    特定の制度(家族信託など)だけを無理に勧めることはありません。ご家族の状況を丁寧にヒアリングし、遺言、任意後見、家族信託など、複数の選択肢の中から最も適した方法を組み合わせてご提案します。
  • 複雑な法的手続きの丸ごとサポート
    家族信託の契約書作成、公証役場とのやり取り、不動産の名義変更(信託登記)など、専門的な手続きをすべてお任せいただけます。
  • 将来のトラブルを防ぐ法的な専門知識
    のちのち親族間で揉めないための契約書の作り方や、遺留分(最低限保障された相続分)に配慮した生前対策など、法律の専門家ならではの視点で安全な設計を行います。

まとめ

親の認知症は、誰にでも起こり得る身近な問題です。認知症の進行に伴う「口座凍結」や「不動産の売却不可」といった問題は、親が元気なうちに適切な対策を講じておくことで、確実に回避することができます。

「まだ大丈夫」という今の時期こそが、一番の準備期間です。将来、ご家族が笑顔で、過度な負担なく親のサポートができるよう、まずは第一歩を踏み出してみませんか。

当事務所では、親の財産管理や将来の相続に関するご不安を丁寧にお伺いし、最適なサポートをご提案いたします。「何から始めればいいか分からない」という状態でも全く問題ありません。まずは、お気軽にご相談ください。

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