
外国人が日本の不動産を取得した場合、外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく報告義務が発生します。
「手続きを知らなかった」という場合でも、外為法違反となり、罰則の対象となります。
外為法の届出は期限が短く、見落としやすい手続きの一つです。
本記事では、外為法に基づく「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」について、誰が、いつまでに、何をすべきか、さらに令和8年(2026年)4月1日以降の重要な変更点まで、不動産登記の専門家である司法書士が分かりやすく解説します。
この記事を読めば、外国人・非居住者が関わる不動産取引での外為法上の義務と、実務上の注意点がすべて分かります。
誰が・いつまでに・何をすべきか
まずは、誰が、いつまでに、何をすべきかについてを整理します。
- 対象者 : 非居住者(外国人や海外在住の日本人など)
- 提出期限 : 不動産(または不動産に関する権利)を取得した日から20日以内
- 手続き概要: 「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」を作成し、日本銀行を経由して財務大臣へ提出する
対象となる方は、期日までに確実に報告を行う必要があります。
期限が非常に短いため、不動産取引の決済が完了したら直ちに対応を進めることが重要です。
不動産取得報告の目的は?
外為法における不動産取得報告の目的は、日本国内外の資金の流れや資本の移動を国が正確に把握することにあります。
- 目的: 国際収支の統計作成や、不当な資本移動(マネーロンダリング等)の監視・防止
- 対象となる不動産・権利: 日本国内にある土地、建物(居住用・事業用・投資用問わず)、および借地権などの不動産に関する権利
【令和8年4月1日以降の変更点】非居住者の不動産取得に関する報告要否
令和8年4月1日から、非居住者が不動産を取得した際の「報告対象」が大きく変わります。
これまでのように“投資目的かどうか”を判断する必要がなくなり、よりシンプルなルールになります。
取得日による比較(令和8年3月31日以前/4月1日以降)
| 取得日 | 令和8年3月31日以前 | 令和8年4月1日以降 |
|---|---|---|
| 報告対象 | 投資目的等で取得した不動産又はこれに関する権利の内容等 | 目的を問わず、取得した不動産またはこれに関する権利の内容等 |
| 上記のうち報告不要となるケース | ① 非居住者本人・親族・使用人その他の従業員の居住用 ② 非営業目的の業務遂行のために取得したもの ③ 非居住者本人の事務所用 ④ 他の非居住者から取得したもの | ① 非居住者本人・親族・使用人その他の従業員の居住用目的で取得した不動産に関する権利(※) ② 非営業目的の業務遂行のために取得した不動産に関する権利 ③ 非居住者本人の事務所用として取得した不動産に関する権利 |
※ 「不動産に関する権利」とは、賃借権、地上権、抵当権等。不動産の所有権は不動産に関する権利に該当しません。不動産自体の取得があればその報告は必要です。例)借地権付き建物の購入した場合、建物部分が報告対象となる。
ポイント(令和8年4月1日以降)
- 「目的を問わず」報告対象になるため、判断がシンプル
- 不動産そのものだけでなく、不動産に関する権利も対象
- 実務では 「報告が必要かどうか」よりも「不要ケースに該当するか」 の確認が重要
報告書の記載事項が追加
令和8年4月1日以降に不動産を取得したケースでは、報告書のフォーマットが新しくなり、記載事項が追加されます。
令和8年4月1日改正前後の比較
| 項目 | 令和8年3月31日以前 | 令和8年4月1日以降 |
| 取引の相手方 | 記載不要 | 追加(相手方が居住者か非居住者かの明記) |
| 取得の目的 | 記載不要 | 追加(居住用、投資目的などの詳細) |
| 不動産番号 | 記載不要 | 追加(不動産登記簿上の13桁の番号) |
- 実務上の影響: これまでは事後的に「誰が何を買ったか」を報告するのみでしたが、今後は「誰から買ったか(取引の相手方)」「なぜ買ったか(目的)」「どの不動産か(不動産番号)」を明確にしなければなりません。特に不動産番号の記載が求められるため、登記事項証明書を手元に用意しておく必要があります。
報告書の提出義務者は?「非居住者」の定義とよくある誤解
「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」を行う義務があるのは、外為法上の「非居住者」です。
外為法上の「非居住者」とは
| 居住者 | 非居住者 |
|---|---|
| 本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人。 非居住者の本邦内の支店、出張所その他の事務所は、法律上代理権があると否とにかかわらず、その主たる事務所が外国にある場合においても居住者とみなす。(外為法6条1項5号) | 居住者以外の自然人及び法人(外為法6条1項6号) |
よくある勘違いと注意点
日本在住でも対象になるケース:日本に住んでいる外国人であっても、入国後6ヶ月未満である場合や、外交官または領事官などは「非居住者」とみなされ、報告義務が発生します
届出はいつまで?提出期限と遅延時のリスク
- 提出期限: 不動産(または不動産に関する権利)を取得した日から20日以内
- 起算点: 取引や行為を行った日(所有権移転の効力発生日。通常は引渡し・決済日)
20日目にあたる日が休日の場合は、その翌営業日までとなります。「期限が極めて短い」ことが最大のリスクです。決済後、登記手続きや引越しの準備に追われている間にあっという間に過ぎてしまうため、事前の準備が欠かせません。
報告書の提出先と手続きの流れ
- 提出先: 日本銀行を経由して、財務大臣へ提出
- 提出方法:
- 日本銀行のオンラインシステムによる電子提出
- 郵送
- 必要書類:
- 本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書(様式第22)
なお、非居住者本人のほか、代理人(不動産仲介業者や司法書士など)による提出も認められています。
【司法書士が解説】実務上の注意点と見落としやすいケース
ここからは、不動産取引の専門家である司法書士の視点から注意点を具体的に解説します。
契約段階での確認と本人確認の徹底
決済日を過ぎてから「実は非居住者だった」と発覚しても、20日の期限に間に合わないリスクがあります。
契約段階から、買主の国籍、居住地、日本での滞在期間、取得目的を正確にヒアリングし、本人確認書類と照合することが重要です。
見落としやすいケース
実務で注意が必要なのは以下のケースです。
- ① 相続による取得: 売買だけでなく、相続や遺贈で不動産を取得した場合でも報告義務があります。
- ② 共有名義での取得: 夫婦で購入し、一方が居住者、もう一方が非居住者の場合、非居住者の持分について外為法の対象となります。
- ③ 信託受益権の取得: 不動産そのものではなく、不動産を信託財産とする「信託受益権」を取得した場合も、外為法上の権利取得に該当し報告対象となります。
報告を怠った場合の違反リスクと罰則
「知らなかった」「うっかり忘れていた」では済まされません。
外為法の報告義務に違反した場合、罰則規定が適用される恐れがあります。
- 罰則の内容:報告を行わなかった場合、または虚偽の報告を行った場合、「6カ月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」に処される可能性があります。
- 実務上の影響:外為法違反の事実があると、将来その不動産を売却する際や、日本の金融機関でローンを組む際、口座を開設する際などに、コンプライアンス上の重大な問題とみなされ、取引を拒否されるリスクがあります。決して放置してはいけません。


